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福岡地方裁判所 平成6年(行ウ)34号 判決 1995年9月08日

原告

川原健一

被告

中間市長

藤田満州雄

右訴訟代理人弁護士

阿部明男

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し平成六年五月一六日付けでした中間市大字中間字爪割三一一二番一の土地に対する固定資産税の賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、中間市大字中間字爪割三一一二番一(現地番中間市中尾二丁目三一一二番一)の土地(地目雑種地。以下「本件土地」という。)の所有者であるところ、本件土地は、一級河川遠賀川水系の一部である黒川の河川区域内に指定されている堤外の土地(いわゆる堤外民地)であり、堤防道路である小倉・中間線に隣接し、右道路面とほぼ同じ高さにある。

2  被告は、平成六年五月一六日付けをもって課税標準額一八万四六六七円、税額二五八五円とする本件土地に係る固定資産税の賦課決定処分(以下「本件処分」という。)をし、原告は、本件処分を不服として平成六年六月二四日被告に対して異議申立てをしたところ、被告は、同年八月二日右申立ては理由がないとして棄却した。

3  しかしながら、本件土地は地方税法(以下「法」という。)三四八条二項一号所定の「公共の用に供する固定資産」に該当するものであって非課税とされる固定資産であるから、本件処分は違法である。

よって、原告は、被告に対し、本件処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1及び2の事実は認め、同3は争う。

2  被告の主張

(一) 法三四八条二項一号は、「国並びに都道府県、市町村、特別区、これらの組合及び財産区が公用又は公共の用に供する固定資産」に対して固定資産税を課することができない旨定めているが、これは、固定資産税が固定資産自体の有する価値(収益性)に着目し、それを所有することに担税力を見い出して課税される収益税的財産税であるところ、同号所定の固定資産には所有者の収益可能性が極端に少ないために非課税とされているものと解される。したがって、同号所定の「公共の用に供する」とは、道路、河川、港湾、公園等のように、国、都道府県等が広く不特定多数のいわゆる一般公衆の利用に供することによって公の行政の目的を達するものをいい、財産権の主体の側よりみれば、権利者において何らの制約を設けず、広く不特定多数人の利用に供される性格を有する財産(固定資産)をいうと解される。そして、堤外民地は、河川区域に指定された(河川法六条一項三号)ことにより、工作物の新・改築、土地の現状変更等その使用について河川法により制約を受けるものの(同法二六、二七条)、所有権に基づく排他的使用(占有)(同法二四条)、土石等の採取(同法二五条)、あるいは一般の田畑同様の耕作(二七条一項但書、同法施行令一六条)はいずれも可能とされている。そうすると、堤外民地は、右制約の下でも固定資産税を課するに足る収益可能性が認められ、かつ、右制約が課せられたことによって直ちに所有者において何らの制約を設けること無く不特定多数人の利用に供しているともいえないから、右「公共の用に供する固定資産」には該当しないというべきである。

(二) ところで、本件土地は、堤外民地であり、その地目は雑種地とされているが、その現況は一級河川遠賀川水系黒川の堤防道路たる県道小倉・中間線に隣接して右県道の路面とほぼ同じ高さに盛土された平坦な土地であって、資材置場、駐車場、畑等として使用収益することが可能であり、現に、本件土地周辺の堤外民地には、駐車場、資材置場等として使用されている所もある。したがって、本件土地は、右「公共の用に供する固定資産」には該当しないことは明らかである。

三  被告の主張に対する原告の反論

本件土地は、一級河川遠賀川水系の一部である黒川の河川区域内に指定された堤外民地であり、公共用物たる河川を構成する土地として公共の用に供されているばかりでなく、その現況は黒川に沿った堤防道路である県道小倉・中間線に隣接し、道路面とほぼ同じ高さで堤防を補強しているというべきであるから、右「公共の用に供する固定資産」に該当するというべきである。

第三  証拠関係

本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1及び2の各事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件土地が法三四八条二項一号に規定する「公共の用に供する固定資産」に該当するか否かについて判断する。

固定資産税は、家屋等の資産価値に着目し、その所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税であるところ、同号の「公用又は公共の用に供する固定資産」についてこれを非課税としたのは、人的非課税団体たる国又は地方公共団体等が固定資産を公用または公共の用に供するがために、当該固定資産の所有者による使用収益の可能性がなく、ひいてはその資産価値を見い出せないからであると解される。それゆえ、同号の「公共の用に供する」とは、国又は地方公共団体等が右固定資産を公共の用に供することによってその所有者による使用収益の可能性がない状態にあることをいうと解するのが相当である。

ところで、河川法六条一項三号により「河川区域」とされた堤外民地は、河川における一般の自由使用を妨げ、又は洪水に際して河川の機能を減殺する等のおそれがあることから、工作物の新築等及び土地の掘さく等について河川管理者の許可を得なければならないという制限(同法二四条ないし二七条)を受けており、河川区域内の土地として公共の用に供されている一面を有することは否定できないが、他方、堤外民地といえどもその制限された範囲内において、その所有者がこれを自由に使用収益し得るのであるから、そこに資産価値が認められることは明らかであり、ひいては担税力を認め得ることも当然である。したがって、堤外民地ということでもって、同号の「公共の用に供する固定資産」に該当すると認めることは、許されないことになる。そして、本件土地の現況が同号の「公共の用に供する固定資産」に該当するか否かについてみるに、本件土地が黒川に沿った堤防道路たる県道小倉・中間線に隣接して右県道の路面とほぼ同じ高さに盛土された現況にあることは当事者間に争いがなく、証拠(甲第三号証、乙第一、第二号証)によれば、本件土地上には雑草が繁茂しているが更地の状態であり、本件土地周辺の河川区域内の本件土地の現況と類似した土地の中には、果樹畑や廃品置場等に使用されている土地があることが認められる。そうすると、以上の事実からすれば、本件土地が右の類似した土地と同様に使用収益の可能性を有していることは明らかであり、ひいては本件土地の資産価値も十分認められるので、本件土地は、同号の「公共の用に供する固定資産」には該当しないというべきである。したがって、本件処分は正当といわなければならない。

三  以上のとおり、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官中山弘幸 裁判官向野剛 裁判官三村義幸)

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